日本は成功しすぎたEUである(映画と思想のつれづれ)

明治の国会には藩の数ほどの通訳が当初いたそうです。律令制の昔から明治までの日本は連合国家みたいなもんだったんだなあ。

『アイアンマン3』は、恋するフォーチュンクッキーだった

恋するフォーチュンクッキー。(←このネタ誰かが書くかと思ったのですが、ベタ過ぎたのか誰も書いていないようなので書きます。)


マーベル『アイアンマン3』予告編

 

今回はアメコミの雰囲気が非常によく再現できていたと思う。もう満点、サイコーです。今まで自分の中ではアメコミ再現度(原作再現度ではない)では「ディックトレーシー」が最高だったのですが、ぶち抜きましたね。色彩感覚といい、登場人物の不安定な心理状態といい、リアルアメコミの世界。いやー、いいわあ。

パニック障害過呼吸になるシーンでは、私も過呼吸になりそうでした。普通にサラリーマンしてたって、思い出しただけで過呼吸になりそうな体験のひとつやふたつありますもんね。ましていわんやアベンジャーズをや。

それに今回は、お気に入りの箇所が3つありました。

1.脚本がドン・チードルに宛書きされていたこと。これでアイアンマン2の不満が消えました。

2.ペッパーにアイアンマンスーツが装着されたときのアイアンマンの女の子歩き。リアルというか変態というか。こういうこだわり大好きです。

3.いまや嫌われセレブNo.1のパルトロウ( http://bit.ly/1iTBoof )演じるペッパーが、普通の女性(あくまで心理面のみを言ってます)なところ。拗ねたり夫を素直に愛したり。こういう普通の女性(あくまで心理面のみを言ってます。←しつこい。)は、もはやアメリカ映画ではアメコミくらいファンタジーな設定でなければ出てこないものなー。貴重なだけに喜ばしい。

実に、私的に満足感の高い映画でありました。素晴らしい。

 

さて以下、フォーチュンクッキーについて。

今回のアイアンマンは、フォーチュンクッキーが重要なキーワードになっています。

劇中、フォーチュンクッキーについては、二度言及されます。

最初は、敵役マンダリンとしてベンのセリフ、「フォーチュンクッキーは中国のお菓子だと思っているだろう。だが実際はアメリカが作ったものだ。だから中身が空っぽで嘘がつまってる。そして後味が悪い。」"A true story about fortune cookies. They look Chinese. They sound... Chinese. But they're actually an American invention. Which is why they're hollow, full of lies, and leave a bad taste in the mouth." です。

フォーチュンクッキーは、敵から見たスーツ型兵器としてのアイアンマンのメタファーになっています。待ちぼうけを食らわされ死にたくなる思いになったキリアンにとって、アイアンマンに入っているのは嘘つきのトニーであり、アイアンマンスーツは噛み砕いて吐き捨てるしか用のない不味くてちっぽけな単なる硬いモナカに過ぎません。

この映画では、アイアンマンは、スーツとして多く登場します。そして実によくバラバラになります。まるで口の中のフォーチュンクッキーのように。そして、スーツの中にはトニー・スタークのみならず、ペッパー、キリアン、大統領(大統領はウォーマシンの中だけど)と複数の人物が入ります。フォーチュンクッキーは、クッキーでありながらクッキーは添え物に過ぎず、その本体は中に入っている占いの紙です。アイアンマンは、アイアンマンという名でありながらスーツに過ぎず、本当にアイアンマン(「強い人間」という意味があります)なのはなのは中に入っている人間なのです。

つまり、フォーチュンクッキーというキーワードを通じて、今回は「アイアンマン」という実存の本質は何なのか、を映画として描くぞ、というメッセージを作り手は我々に投げかけているのです。

それが描ききれているか、というと描ききれていません。ですが、それはわざとかもしれません。描ききらないことで、エンドロール後の "Tony Stark will return" が意味をもって迫ってくるからです。どういうことでしょうか。

フォーチュンクッキーについて二度目に言及されるのは、マンダリンの舞台裏、素の状態でのトレバーがベッドの女に語るシーンでのベンのセリフ、「フォーチュンクッキーは中国のものじゃないって知ってるか?日本のレシピをもとにアメリカが作ったものなんだ。」"Did you know that fortune cookies aren't Chinese? They're American, based on a Japanese recipe." です。

そして、今回のアイアンマン3は、米中合作映画なのです。中国上映版には他国版にはないシーンが付加されていることが伝えられています( http://news.aol.jp/2013/06/05/china-iron-man-3/ )。それは、最後にトニーが胸にある電磁石を手術によって摘出するシーンだそうです。日米上映版では、あっさり描かれたこのシーンですが、中国版では中国の有名俳優が外科医役としてちょい長めに手術シーンが描かれているそうです。

最初のフォーチュンクッキーのシーンの直後にマンダリンはこう言います。「私の弟子たちはちょうど別の安っぽいアメリカ製の中国の偽物を破壊した。チャイニーズシアターだ。」"My disciples just destroyed another cheap American knockoff: the Chinese Theatre."

せっかくの中国バージョンですが、そのオリジナルの追加シーンがおざなりっぽいということで中国ではあまり好評ではなかったといいます。少し強引な解釈かもしれませんが、米中合作たるアイアンマン3チャイニーズシアターとかぶって見えてきませんか。

中国のまがいものは中国人が始末する、そういうメタな文脈で、この手術シーンを捉えると意味深です。次作は中国とトニーの物語になるのかもしれません(外したらごめんなさい)。アイアンマンの象徴である胸の電磁石を捨てて、どのような形でトニー・スタークは帰ってくるのでしょうか。原作が現実の国際政治の状況を受けてどのように翻案されて映画に結実するのか、恋するフォーチュンクッキー、次も踊らされてみましょうか。次作も非常に楽しみです。


【MV full】 恋するフォーチュンクッキー / AKB48[公式]

アイアンマン3 (字幕版)