日本は成功しすぎたEUである(映画と思想のつれづれ)

明治の国会には藩の数ほどの通訳が当初いたそうです。律令制の昔から明治までの日本は連合国家みたいなもんだったんだなあ。

『年を重ねるのが楽しくなる!「スマート・エイジング」という生き方』扶桑社新書


アンチエイジングの発想では未来がネガティブになる
一般に、加齢はネガティブな意味合いで語られる。できれば年は取りたくないものだ。こうした思いが、女性においてはアンチエイジングという若さを保つためのシニア向け化粧品や美容技術の市場を興隆させ、男性においては老害といった言葉が世代闘争を刺激している。だが人間である以上、加齢は必然である。少子化による人口の逆ピラミッドが進行している以上、ネガティブな言葉で加齢を語ることは、未来をネガティブな言葉でしか語れないことを意味する。こうした社会の風潮に敢然と否の姿勢を打ち出したのが、スマート・エイジングという生き方である。私はそのようにこの本を読んだ。


■エイジングとは人生のプロセスそのもの
スマート・エイジングとは、「エイジングによる経年変化に賢く対処し、個人・社会が知的に成熟すること」なのだそうだ。この定義には3つの要素が含まれている。1つめの要素は、賢く年を取ること、である。スマートは賢くという意味なのだから、スマートエイジングの定義が賢く年を取ることになることはあたりまえのようにも思えるが、私は非常に重要な視点であると思う。なぜなら、この定義ではエイジング(高齢化)を語る主体がエイジングしている人自体であるからだ。私は高齢化について語る主体が高齢者ではないことにずっと不満を持っていた。社会が若者をスタンダードとし、若者から外れかかった中高年はスタンダードにしがみつくためにアンチエイジングにすがり、完全に若者から外れた熟高年は老害として疎まれる。持てる熟高年は既得権益を手放さず、世代闘争をやり過ごす。社会が単一の価値観で塗りつぶされていることは極めて不健全である。


■人生の一瞬一瞬に光を当てる
スマート・エイジングという視点は、こうした若者対非若者の不毛な対立を無効化する。なぜなら、エイジングとは、生まれた瞬間から死ぬ時まで、誰もが経験していく人生のプロセスそのものであるからだ。人の一生を子供、若者、中年、老人とくくってしまうのではなく、人生を微分し一瞬一瞬に光を当てていくスタンスが、スマート・エイジングという生き方には可能性として含まれている。何千年も前のスフィンクスの謎かけではあるまいし、21世紀の現在に、人生をまるで血液型占いのようにおおざっぱにくくって何の得があろう。


2つめの要素は、個人が知的に成熟すること、である。知的に未成熟な老人が溢れた世界はおぞましい。しかし、肉体のアンチエイジング指向は、精神のアンチエイジングを道連れにしてしまうのではないか?


3つめの要素は、社会が知的に成熟すること、である。社会を知的に成熟させていくことを目標とすれば、我々は未来をポジティブに語ることができる。知的に成熟した高齢化社会は、少なくとも知的に未成熟な若年社会より安全安心で魅力的なはずだ。


■要介護や寝たきりにならないための秘訣など具体例がぎっしり
本書には、スマート・エイジングという高い理想を背景に、要介護や寝たきりになるべくならないための7つの秘訣といったすぐに役に立つノウハウから、著者らの国際的なスマートエイジングへの取り組みの苦労話、しっかりしたデータに基づいた脳の活性化の方法などの具体例がぎっしりつまっている。


個々の詳細はネタバレになるので省くとして、一つだけ、カレッジリンク型シニア住宅(大学のキャンパス内あるいはキャンパスからそれほど離れていないところに立地し大学と連携して運営するシニア向け住宅)についての筆者の感想を引用したい。まさにスマートな高齢化社会を言い表していると思うからだ。


『私が最も感銘を受けたのは、従来の老人ホームに見られがちな、若い学生が入居者を慰問し、入居者がそれを受けるという関係ではないことです。むしろ、学生と入居者が一人一人の大人として相対し、互いを尊重し、学び会うスタイルであり、従来の老人ホームにはない「爽やかさ」を感じたのです。』(p.93)


■スマートな高齢化社会の到来に向けて
実は、私は尊敬する親戚を二人、老人ホームで亡くしている。一人は伯父で、企業人として活躍したあと軽い認知症になって老人ホームに入ることになり、たちまち幼稚園児のような入居者への扱いに憤慨し絶望し急激に心身の老化が進行し三ヶ月で死んだ。もう一人は母の兄弟と暮らしていた祖父で、これまた軽い認知症になって老人ホームに通わせられることになり、その意味を悟り、ほどなくして自殺ではないが自らの意思で一生の幕を下ろした(ヨガや仏教に造詣の深い人なら、自殺ではなく自らの意思で人生を終わらせることができることを知っていると思う。それができた祖父だった)。


従来の老人ホームの問題は、老人ホーム単独の問題ではない。そのような老人ホームを生み出した我々の社会と、そのような老人ホームに老人を送り込むことを必要とする個人の存在の問題だと考える。日本はアンチエージングを乗り越え、成熟できるのか。著者の「爽やかさ」を感じた気持ちに深く同意し、スマートな高齢化社会の到来にむけて、せめて私も、賢く経年変化に対処し、知的に成熟を重ねていかなければと思う。そして、スマートエイジングという生き方を皆ができるように日々努力されている著者をはじめとする方々に敬意を表し、未読の方々に広く本書を薦めたい。


年を重ねるのが楽しくなる! [スマートエイジング]という生き方 (扶桑社新書)

年を重ねるのが楽しくなる! [スマートエイジング]という生き方 (扶桑社新書)