日本は成功しすぎたEUである(映画と思想のつれづれ)

明治の国会には藩の数ほどの通訳が当初いたそうです。律令制の昔から明治までの日本は連合国家みたいなもんだったんだなあ。

『スパイダーマン/ホームカミング』は、間テクスト性で味わう

大人の鑑賞に堪える特撮ヒーローものを開拓し、それを常識化してしまったマーベル作品群ですが、少し大人に寄りすぎたという反省からか、本作は学園ヒーローものになっています。


新スパイダーマン、アイアンマンと共闘!『スパイダーマン:ホームカミング』予告編

 

上手いのは、アイアンマンを親代わりと位置づけているところ。このことにより、『アイアンマン』を基軸にした他の作品は、高校性を息子に持つような世代をもターゲットにしていることをさりげなくアピールすることに成功しています。

13.シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ (2016)
14.ドクター・ストレンジ (2016)
15.ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー/リミックス (2017)
16.スパイダーマン/ホームカミング (2017)
17.マイティ・ソー/バトルロイヤル(2017) 

 

アメコミは、もともとアメリカのユダヤ系移民の才能ある人たちが、差別のために望むような仕事につけず、たどり着いたひとつがコミック雑誌だったという史実が発端であり、それらヒーローたちには大人の情念が込められています*1

 

ですが、大人ばっかりを相手にしていると、そのジャンルが先細って瀕死状態になるのは趣味の世界の現実です。日本のカー雑誌とかオーディオ雑誌とかはそういう状態に陥っています。

 

そこで本作。これまでの『スパイダーマン』に比べると、まるで『スパイ・キッズ』みたいな『スパイダーマン』になっています。

 

ただし素晴らしいのは、いわゆる子ども向けになっていないところ。

文芸批評の用語に「間テクスト性」というのがあります。ある作品(テクスト)を見るときに別の作品を思い起こすことで、作品世界に深みが出ることを言います。

 

最近では、「令和」の元号の典拠が話題になりました*2

 

大人には、本作を「間テクスト性」で楽しむ演出がそこここになされています。サム・ライミ監督やマーク・ウェブ監督のスパイダーマンシリーズはもとより、例えば、ダニエル・クレイグ主演の007シリーズなんかを見ていたりするとホッコリするかもしれません。

 

そんなわけで、未熟さゆえに被害の程度をでかくしてるんじゃないかとか、あれだけの事故で死者が出ないのは運が良すぎる(グローサリーストアじゃなくて、船の破壊と飛行機の墜落)とか、ストーリーにはツッコミどころは多いのですが、あばたもえくぼで許せる魅力がこの映画にはあるのです。

 

それには役者の魅力も大きく貢献しています。ピーター・パーカー役トム・ホランドの笑顔とマイケル・キートンのいつもながら憎みきれない悪役ぶりは大変魅力的です。マイケル・キートンの配役なんて、『バットマン』+『ファウンダー』でまさに間テクスト性です。

 

新MJもいい。ちょっとしか出てこないのに存在感のあるグゥイネス・パルトロウもさすがです。エンディング後のおまけシーンも素晴らしい。

 

アメコミ入門編として佳作と思います。