『海よりもまだ深く』と是枝監督と橋口亮輔監督作品
もう先週のことになるが、樹木希林さんの訃報を受けてすぐに、本作を見た。『万引き家族』は劇場で見る予定だったけど、時間が取れないでいるうちに上映期間が終わってしまっていたしね。
見終わった感想は、是枝節全開だなあと。
単なるトラジコメディで終わっていないし、終わるわけもないよね。
(以下、ダイレクトではないですが、人によってはネタバレかもしれません)
ぬるくないのになまあたたかい、きついのにやさしい。
全編をつらぬくこのあたたかく見守る感の行き場が気になってしまう。
幸せなどどうでもいいと思えるような日常の些細なことの積み重ねが幸せ、なのだろうか?
希望の飼い慣らしが幸せなのだろうか?
これって、不条理な人生への適応を成し遂げた人々の、(結果としての)その人にとっての神の目線での幸せな人生だよね。
是枝監督は、たまに神の目線で映画を撮る(ように思う)。
神には時間は無意味である。全知全能だからね。人間のように起承転結を追う必要もなければ、三段論法で先のことを対策したり、過去を反省してよき未来を期待することもない。是枝監督の映画には、劇的な変化が起こらないことの方が多い。神の目には不必要だからね。
この映画も、神の目線では人生賛歌と言えるのだろうが、阿部寛や真木よう子、吉澤太陽(子役)のもっと苦しむ姿、そして苦しんだあとになにかが変わる様を見せられないのは、映画を見ている私にとってはある意味地獄だった。
かわりに台風だけなのが映画としてはうまいんだけど、この演出のぬるい厳しさは結構精神にきついです(だからこそ世界で評価されている監督の作品なんだろうね)。
「救いがないのが救い」という本作だったが、見終わって橋口亮輔監督の『恋人たち』(これも凄くいい映画なんだ)を思い出した。こちらは、「救いがないのに救われている」映画だった。
この二作、立ち位置が似ているようでいて、実は好対照であることに気がついて、考えさせられた。
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樹木希林のことについて書かなかったので、変わりに吉田豪氏によるこの極めて秀逸なエピソードを貼っておきます。