日本は成功しすぎたEUである(映画と思想のつれづれ)

明治の国会には藩の数ほどの通訳が当初いたそうです。律令制の昔から明治までの日本は連合国家みたいなもんだったんだなあ。

240年目の古事記伝 第七回 233文字の構造(産巣日神論①)

 ここまで、「天地初発」「天之御中主神」「高天原」と考察を進めてきました。
その結果、『古事記』の「天地初発」は、『日本書紀』の「天地開闢」や『旧約聖書』の「天地創造」とは全く異なる世界創生譚であることがあきらかになりました。

それは、天と地とが自らの意思で発(あら)われた時に、天之御中主神高天原に誕生したことによって、その後に高天原に次々に誕生する神々(=天つ神)が等しく中心の神々となるような世界が創造されるというものでした。

天之御中主神とそれに続く神々との関係は、日本以外の神話に見られるような特定の神を頂点とするピラミッド的な秩序や、一神を中心とした放射状の曼陀羅構造ではありませんでした。

そして、天之御中主神の次には、高御産巣日神(たかみむすひの神)と神産巣日神(かみむすひの神)が誕生するのですが、これらの神々の理解のためには、最初に天地初発233文字の構造を把握しておくことが必要となります。

 ■233文字の構造

天地初発から始まる古事記の冒頭の233文字は明確な構造を取っています。わかりやすいように下に、書き下し文にしたときに一つの文章となる箇所で区切って改行し、一文ごとに記号を付してみます。太字が神名、属性が太字斜字体です。さらに、古事記の冒頭部分は、いくつか神名が列挙されたあと、それらを総括する一文が付され(下の④⑦⑧⑪⑰)て属性が示されますから、【属性】としてまとめると次のようになります。以降それぞれの【属性】のまとまりを「段落」と呼ぶことにします。【別天つ神A】は、古事記冒頭の最初の段落です。

 

【別天つ神A】
①天地初発之時於高天原成神名天之御中主神
②次高御産巣日神
③次神産巣日神
此三柱神者並独神成坐而隠身也

 

【別天つ神B】
⑤次国稚如浮脂而久羅下那州多陀用弊流之時 如葦牙因萌騰之物而成神名宇摩志阿斯可備比古遅神
⑥次天之常立神
此二柱神亦独神成坐而隠身也


上件五柱神者別天神

 

神世七代A】
⑨次成神名国之常立神 
⑩次豊雲野神
此二柱神亦独神成坐而隠身也

 

神世七代B】
⑫次成神名宇比地邇神次妹須比智邇神 
⑬次角杙神次妹活杙神 
⑭次意富斗能地神妹大斗乃辨神 
⑮次於母陀流神次妹阿夜訶志古泥神 
⑯次伊邪那岐神次妹伊邪那美神 
上件自国之常立神以下伊邪那美神以前并称神世七代

 

 これを書き下し文にすれば、次のとおりになります。

【別天つ神A】
①天地はじめて発(あら)わしし時に、高天原に成りませる神の名は天之御中主神(あめのみなかぬしの神)
②次に、高御産巣日神(たかみむすひの神)
③次に、神産巣日神(かむむすひの神)
この三柱の神は、みな独神(ひとりがみ)と成り、坐(い)まして*1、身を隠しき

 

【別天つ神B】
⑤次に、国わかく浮けるあぶらのごとくしてクラゲなすただよえる時に、葦牙(あしかび)のごとく萌えあがれるものによりて成りませる神の名は、宇摩志阿斯可備比古遅神(うましあしかびひこじの神)
⑥次に、天之常立神(あめのとこたちの神)
この二柱の神はまた独神(ひとりがみ)と成り、坐(い)まして、身を隠しき


上のくだりの五柱の神は、別天神(ことあまつかみ)

 

神世七代A】
⑨次に成りませる神の名は、国之常立神(くにのとこたちの神)
⑩次に、豊雲野神(とよくものの神)
この二柱の神はまた独神(ひとりがみ)と成り、坐(い)まして、身を隠しき

 

神世七代B】
⑫次に成りませる神の名は、宇比地邇神(うひじにの神)。次に妹(いも)須比智邇神(すひちにの神)。
⑬次に、角杙神(つのぐひの神)。次に妹活杙神(いくぐひの神)。
⑭次に、意富斗能地神(おほとのぢの神)。次に、妹大斗乃辨神(おほとのべの神)。 
⑮次に、於母陀流神(おもだるの神)。次に、妹阿夜訶志古泥神(あやかしこねの神)
⑯次に、伊邪那岐神(いざなぎの神)。次に、妹伊邪那美神(いざなみの神)。 
上の件(くだり)の国之常立神より以下伊邪那美神以前は、并(あわ)せて神世七代(かみよななよ)と称(い)う。

 

■別天つ神

 『古事記』では、天地初発の時に誕生した神である天之御中主神から三番目に誕生した神産巣日神までを①から③で記したあと、これら三柱の神々は独神で隠身であるとまとめた④の一文が入ります。

 次に、時間が経過し「国わかく浮けるあぶらのごとくしてクラゲなすただよえる時」に二柱の神々が誕生したことが⑤⑥で記され、これらの神々もまた独神で隠身であるとまとめた⑦の一文が入ります。

 そして、その次の⑧でそれまでの五柱の神々は別天つ神であるとまとめられます。

 ここまでをわかりやすく表にすれば次のようになります。

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 ■表1.別天つ神

神世七代

 次に、⑨で国之常立神の誕生が、⑩で豊雲野神の誕生が順に記されます。時と場所については記述がないため、引き続き「国わかく浮けるあぶらのごとくしてクラゲなすただよえる時に」「高天原」で誕生した神であることがわかります。

 そしてその次の⑪の一文でこれらの二柱の神々はまた独神で隠身であるとまとめられます。時と場所は、それらが変わりないときには記述は繰り返されませんが、独神で隠身であることは、まとまりとなる神々の数とともに繰り返されます。④では三柱、⑦と⑪では二柱が独神で隠身であると記されています。このことから、独神で隠身であることは、神々の数との関連で理解するものであることがわかります。

 独神とは何か、隠身とは何かについては後述します。

 次の⑫から⑯までは、二柱ずつペアとなる神々の誕生が続きます。そして次に冒頭部分の最後の一文となる⑰に、国之常立神から伊邪那美神までの神々は神代七代(かみよななよ)であるとまとめられます。神世七代は、別天つ神に対応する区分でありながら、「代」とあるように時代の変遷でもあります。そして、その時代は二柱のペアで一代が数えられています。

 ここまでをわかりやすく表にまとめると次のようになります。

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■表2.神代七代

このように、天地初発から書き始められる233文字からなる『古事記』冒頭は、明確な構造を持っていることがわかります。この構造を把握しておくことが、二柱の産巣日神(ムスヒの神)を理解する助けになります。(つづく)

*1:「坐」を動詞とするのは、神辺菊之助の研究による