日本は成功しすぎたEUである(映画と思想のつれづれ)

明治の国会には藩の数ほどの通訳が当初いたそうです。律令制の昔から明治までの日本は連合国家みたいなもんだったんだなあ。

『エクス・マキナ』と日の丸

★★

 2014年の冬にオンラインマガジンのwiredの記事(『Ex Machina』:美しく強力なアンドロイドとの三角関係を描く映画(予告動画あり)|WIRED.jp)でこの映画を知って、以来日本での公開を待ちわびて、ようやく先日劇場鑑賞してきました。

 その間、欧米での公開日が過ぎても、日本公開の話がなかなか聞こえてこなくて、Blu-ray国際版なんかも先に発売されちゃって。ああもう日本公開はないのかなーなんてあきらめていた矢先の日本公開でした。貧乏な私は輸入もんのBlu-rayに投資する思い切りがなくて、kindleで数百円だった台本買って何回も脳内再生してました。

映画はほとんど脳内再生と同じで、その部分はとっても満足だったのですが、台本や予告編からは想像できなかったところが、なんとも興ざめだったんですよねー。(以下ネタバレあり)


映画『エクス・マキナ』予告編

 

 

それはAIと原爆との比喩。台本以上に執拗だったところがちょっとね。

 

 まず、ブルーブック社の社長の慰みもののフェムボットがキョウコ。なぜにダッチワイフに日本名付ける?

 まあ、社長のネイサンとケイレブが一緒に箸でなんか食ってるシーンが出てくるから社長は日本趣味がありそうという布石は打たれているんだけど、"原爆の父"オッペンハイマーのセリフを二人で確認する時点で、映画の作り手が人類を破滅させることのできるテクノロジーとしてAIと原爆とを同一視しているのが明確で、原爆=アメリカだから蹂躙されるのは日本人じゃなきゃいけないのねってそのステレオタイプに驚く。

 

 最後、ネイサンが刺されるシーンでは彼はなぜか白装束で、刺されて血が滲んで日の丸みたいになるんだよねー。台本では刺されるとしか書いてなかったから、あー日の丸だーとうんざりして見てました。

 

極めつけは、エンドロールで気がついたけど、挿入歌がエノラゲイという曲だったこと。エノラゲイといえばヒロシマに原爆を投下した爆撃機の名前です。これで一気に許容範囲を超えた。しつこい!

 

なんだろうこの執拗さは。

アメリカ発の行きすぎたテクノロジーを日本に滅ぼして欲しいって願望が作り手の心のどこかにあるのだとしたらそれはなんかずるい。それともイギリス人はアメリカにも日本にも飽きちゃったんでしょうかね。もう欧米捨てて(EU離脱とか、AIIBへのいち早い加盟とか)、脱亜入欧した日本も一緒に捨てて、俺たちイギリスはこれから中国と組んで世界を新しく塗り替えていくぞーってことなんでしょうかね。

 

そういえばブルーブックはヴィトゲンシュタイン青色本から取られた名前だとか。これだけ底が浅い設定だと、かえってその知的趣味がバカに見える。俺は反知性主義でいいやって気になる。

そんなのに凝るくらいなら、ヱヴァが人工肌付けてその分盛れてるはずなのにちっぱいになることの考証なんとかしろ。ファンタスティック・フォージェシカ・アルバみたくCGでいいから細部に凝れ。巨乳にしろ! ←すみません、エキサイトして反知性主義(=権威化した知性に対する反抗)ならぬ反知性(=ただのバカ)発言をしてしまいました。

 

そもそも掘り下げるべきは、無機物に性を持たせる人間の業についてなんじゃないか。アンドロイドとのSEXと屍姦趣味との差の哲学的考察くらいやってみやがれってんだ。

[新宿シネマカリテにて劇場鑑賞]

 

青色本 (ちくま学芸文庫)

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反知性主義: アメリカが生んだ「熱病」の正体 (新潮選書)

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Ex Machina (English Edition)

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