「世界の終わり」とホープ軒
外苑前に用事があり、歩いて千駄ヶ谷の駅まで行った。途中、ホープ軒の前を通り過ぎた。そういえば、村上春樹『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』では、闇の出口はこのあたりだった。さすが村上春樹は東京の土地の霊性をすごくよくわかっている。
『世界の終わり〜』ではラーメン屋は二軒並んでいたが、いまホープ軒の隣にあるのは24時間営業の蕎麦屋である。今や僕らは、「世界の終わり」のそのあとに暮らしているのだ。
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この店の前をタクシーで通りがかったとき、運転手さんに「20年前はおいしかったんですけどね、最近は味がおちたみたいですね。」と言ってみた。すると運転手さんに「20年前ですか。その頃はもう味がおちてましたね。30年前はおいしかったなあ。」としみじみ言われた。そうか、この店は永久にこう言われる運命なんだ。ホープ軒の本当の味はそれぞれの個人の追憶の中にしか存在しないのだ。他人に最低の評価を下されようと関係ない。この店に入ると、高校時代が鮮やかに蘇る(当時は三階建てじゃなかったけれど、一階のレイアウトは当時のままだ)。ここのラーメンは、おろし生にんにくと豆板醤をたっぷりかけて「あの頃」を追体験する時間遡航装置なのだ。今もキラー通りに遊ぶ高校生たちはこの店でラーメンをすすったりするのだろうか。
なお、ここは私にとって特別なお店であり、味うんぬんのレベルを超えてしまっています。どう味が変わっても懐かしさで感涙し、旨さしか感じませんから。
(「東京グルメ」2003/06/28の僕の書き込みから転載)
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