イノベーションのジレンマと「HIAN(ハイアン)の罠」


今年もヒット商品番付が出そろいました。ところが世の中にはヒットする商品がある一方で、作り手の期待に反してヒットには至らない新製品も数多くあります。これらは「HIANの罠」にはまっていることが多いのです。今日はそういうお話しをします。


■「HIAN(ハイアン)の罠」とは

HIANとは、High、Isolated/Indie、All、Newの頭文字を取ったものです。日本語で言うと『「高・孤・全・新」の罠』ということになります。

「H」つまり「高」の罠とは、高性能を追求するあまり一部のマニアを除いて消費者がついていけなくなり、専門家や評論家には激賞されるものの市場には受け入れられない失敗の恐れのことです。

「I」つまり「孤」の罠とは、独自性を発揮しようとして、あるいは同業他社の動向を軽視した結果として、などの理由で採用した規格が孤立化してしまい、だんだんと市場から追い出されてしまう失敗の恐れのことです。

「A」つまり「全」の罠とは、あらゆるタイプの人に売ろうとすることによる商品開発あるいは販売戦略の失敗の恐れのことです。機能をフルにつめこむことが商品開発の目的となってしまうと商品の個性は失われ、その結果販売は低迷します。また、一つ一つの商品はフル機能満載でなくとも、いろいろなバリエーションをそろえすぎてシリーズ自体の個性が見えなくなればラインナップごと低迷してしまうこともありえます。また、地域やラインナップをフルに押さえるような販売戦略による失敗の恐れも含まれます。

「N」つまり「新」の罠とは、目新しさにこだわるあまり、その商品が本来持っていた魅力の本質がモデルチェンジのために失われてしまうことによる失敗の恐れことです。


自動車産業に見る「HIAN(ハイアン)の罠」

自動車産業の例を挙げましょう。

ルノーと提携してすっかり復活したといえる日産ですが、低迷していた時代の日産のキャッチフレーズは「技術の日産」でした。その時代の日産には、専門家に走りは高く評価されていてもほとんど売れないクルマを多く抱えていました。「H」の罠にはまってしまっていたのだと言えるでしょう。

最近の自動車は低燃費かつクリーン排気といった環境性能が求められていますが、ハイブリッド車に加えて欧州で人気のある次世代ディーゼルエンジンの開発も進んできました。これは、グローバルな視点で開発を進めるという「I」の罠にはまらないための措置と言えるでしょう。

トヨタが、米国で高級車向けブランドのレクサスと若者向けブランドのサイオンを立ち上げたのは「A」の罠に落ちないための施策だという言い方ができると思います。小型大衆車から大型高級車までのフルラインナップはメーカーの個性を消費者に伝えにくくしますし、かつてのマツダのように企業体力を必要以上に奪ってしまいます。

また、スバルのレガシーなど最近モデルチェンジの期間が欧州車なみに長期化したのは「N」の罠を避けるためという言い方ができます。以前の日本車はほとんどの車種が2年ごとのマイナーチェンジと4年に一度のフルモデルチェンジというサイクルを取っていましたが、せっかくの人気車種がモデルチェンジ後に人気を失うケースも多くありました。

このように、イノベーションのジレンマを分類することで、陥りやすい罠をチェックすることができるようになり、その結果として商品開発の段階からマーケットの失敗に対するアクティブセーフティーを可能にすることができると私は思っています。


■個性的な企業と「HIAN(ハイアン)の罠」

「HIANの罠」は企業戦略の指針にもなります。企業によってはまりやすい成長と落とし穴のパターンというものが存在するからです。今年のヒット商品番付横綱には任天堂wiiがなりましたが、これに臍を噛んだソニーファンはとても多かったのではないでしょうか。高性能なPS3が低性能のwiiに販売台数などで大きく水を開けられてしまったのは、「H」の罠にはまったからです。ソニーはかつて、VTRの規格競争でも、ハイバンドベータハイファイなど高画質高音質なVTRを業界に先駆けて開発しながらもVHSとの規格競争に敗れているわけですから、「H」の罠いかかりやすい企業と言えると思います。また、MDやメモリースティックが他社にあまり広まらなかったことなど、独自規格にこだわる「I」の落とし穴にもはまりやすい企業でもあるわけです。自社の特徴が分かれば、落とし穴を未然に避けることができます。


■「HIAN(ハイアン)の罠」を避けるには

さきほど、「技術の日産」の例を出しました。今年の東京モーターショーの一番の花形は日産自動車のGTRでした。まさに技術の集大成であるGTRは販売目標を大幅に上回る受注成果をあげています。これは、「H」を極めつつも周到な販売戦略で落とし穴を避けたとてもよい例だと思います。

「HIANの罠」は決して禁忌なのではありません。イノベーションのジレンマのパターンであるということは、マーケットで成功するための成長の因子でもあるということです。実際、ソニーから「H」と「I」のベクトルが失われたらいったいどれほどのソニーファンが残るでしょうか。

成長というのは諸刃の剣です。過ぎたるは及ばざるがごとしというか盛者必衰というか、いけいけどんどんとやっている時はいいけれど、そのパターンにはまりこみすぎるといつの間にか自滅の道に入り込んでしまうものです。そこで、自社の陥りやすいパターンを認識して企業が総力を上げて罠を避けることにより、強みを弱みに変えることなく部門間連携も強化されてより強い企業になっていくことができるのだと思います。


■広がる「HIAN(ハイアン)」分析

私は、日本の製造業の復活のために、3Cや4Pのように「HIANの罠」が広く使われる分析道具になるといいなと思っています。

私の趣味は、オリジナルなマーケティングツールの開発で、「HIANの罠」の他にもこれまでにいくつかの新しいツールを作ってきました。最近では、メーカー系のコンサルタント会社に転職された元の上司が、積極的に私の分析ツールを使って頂いていらっしゃるようです。この方のBlogに、「してはいけない高・大・統」として、私の「HIANの罠」のアイディアが紹介されています。「HIANの罠」のことを以前私は『「全・新・高・孤」の落とし穴』と呼んでいました。今回私が取り上げなかった携帯端末について述べられていますのでぜひお読みになってみてください(携帯市場の今後の不透明さ:カフェ「セレンディピティ」:ITmedia オルタナティブ・ブログ)。数々の一流のコンサルタント会社の第一線で活躍を続けて来られた方にも私の考え方の一部を採用していただいて、大変に嬉しく思っています。ちなみに、日本の携帯のガラパゴス化は、まさに「Iの罠」ですから、携帯端末市場も「HIANの罠」で全て説明がつくことになります。